スマートフォンで学ぶ5つの認知行動スキルがうつ状態を改善─世界最大の臨床試験で解明(Nature Medicine)
研究成果の概要
京都大学、足球彩票、ハーバード大学らの国際共同研究グループは、人口の10%以上が経験し、労働生産性の低下などの原因となる閾値下うつ状態を有する成人を対象に、スマートフォンを用いて認知行動療法(CBT)を自学自習で提供可能なアプリ「レジトレ!」を開発し、5種類のCBTスキルの効果を検証する世界最大のランダム化比較試験(RCT)を実施しました。
本研究は、すべての手続きと介入がオンライン上で完結する「分散型臨床試験(Decentralized Clinical Trial: DCT)」という新たな臨床試験のスタイルを用いて、日本全国から参加者を募集し、スマホアプリによる介入と評価を通じて、実生活環境下でのうつ状態に対する効果を検証しました。
本研究では、CBTの5つの重要なスキル(行動活性化、認知再構成、問題解決、アサーション、睡眠行動療法)を組み込んだアプリを開発し、4つの2×2要因試験を同時に運用するマスタープロトコル方式により、個々のスキルおよびその組み合わせを6週間提供し、その効果をRCTで検討しました。
3,936名の参加者を得て研究を実施し、すべてのスキルがうつ状態を改善し、特に行動活性化+認知再構成、行動活性化+問題解決、行動活性化+アサーション、睡眠行動療法の高い効果が確認されました。またこれら効果は、6週間後のみならず26週間後においても持続していました。
本成果は、2025年4月に国際学術誌「Nature Medicine」に掲載されました。
本研究は、すべての手続きと介入がオンライン上で完結する「分散型臨床試験(Decentralized Clinical Trial: DCT)」という新たな臨床試験のスタイルを用いて、日本全国から参加者を募集し、スマホアプリによる介入と評価を通じて、実生活環境下でのうつ状態に対する効果を検証しました。
本研究では、CBTの5つの重要なスキル(行動活性化、認知再構成、問題解決、アサーション、睡眠行動療法)を組み込んだアプリを開発し、4つの2×2要因試験を同時に運用するマスタープロトコル方式により、個々のスキルおよびその組み合わせを6週間提供し、その効果をRCTで検討しました。
3,936名の参加者を得て研究を実施し、すべてのスキルがうつ状態を改善し、特に行動活性化+認知再構成、行動活性化+問題解決、行動活性化+アサーション、睡眠行動療法の高い効果が確認されました。またこれら効果は、6週間後のみならず26週間後においても持続していました。
本成果は、2025年4月に国際学術誌「Nature Medicine」に掲載されました。
研究のポイント
?スマホアプリ「レジトレ!」による自己学習形式の介入で、実施可能
?心理療法の「中身」に焦点を当て、個々のスキルの有効性を初めて明らかに
?大規模な一般市民を対象とした世界最大規模の分散型臨床試験(DCT)
?有効性、継続効果、スキル間の相乗効果に関する世界初の知見を科学的に検証
?心理療法の「中身」に焦点を当て、個々のスキルの有効性を初めて明らかに
?大規模な一般市民を対象とした世界最大規模の分散型臨床試験(DCT)
?有効性、継続効果、スキル間の相乗効果に関する世界初の知見を科学的に検証
背景
閾値下うつ状態は、抑うつ症状があるものの、うつ病の診断基準を満たさない状態を指し、約11%の人口が該当するとされます。労働生産性の低下やQOL低下の原因になるのみならず、死亡率が高くなることも知られているなど社会的?経済的負担が大きい一方で、医療資源の限界から支援の手が届きにくいという課題があります。
CBTは有効な心理療法として確立されていますが、複数スキルを組み合わせた従来の形式では、個々のスキルの相対的有効性が不明でした。本研究はスマホを用いることで、その構成要素の効果を解明することにより、社会実装を念頭においた今後のデジタルメンタルヘルス介入の最適化や個別化に貢献する知見を提供することを目的に実施しました。
CBTは有効な心理療法として確立されていますが、複数スキルを組み合わせた従来の形式では、個々のスキルの相対的有効性が不明でした。本研究はスマホを用いることで、その構成要素の効果を解明することにより、社会実装を念頭においた今後のデジタルメンタルヘルス介入の最適化や個別化に貢献する知見を提供することを目的に実施しました。
研究の成果
本研究では、行動活性化(BA)、認知再構成(CR)、問題解決(PS)、アサーション(AT)、睡眠行動療法(BI)の5つのCBTスキルについて、それぞれ単独および各要素を組み合わせた効果を比較可能な2×2要因試験を4つ実施しました。参加者は3,936名で、全国からリクルートしました。
主要アウトカムは抑うつ症状(PHQ-9スコア)の変化であり、6週間後の解析ですべてのスキルがシャムアプリに比べ改善効果を示しました。特に行動活性化、睡眠行動療法、行動活性化+認知再構成、行動活性化+問題解決、行動活性化+アサーションが大きな効果を示しました。効果サイズはそれぞれ?0.48、-0.46、-0.47、-0.49、-0.44とスマホによる自学自習による介入としては予想以上の効果が確認されました。うつ病に対する抗うつ薬の効果がプラセボに比べて?0.31程度の効果サイズであることを考えますと、閾値下うつ状態に対してスマホCBTがしっかりとした効果を有していることが実感していただけるのではないかと思います。
効果は6週の介入後も持続し、半年後(26週)にも有意差を維持。とくに睡眠行動療法、行動活性化+認知再構成、行動活性化+問題解決、行動活性化+アサーションが有効でした。
その他、不安症状(GAD-7)、不眠(ISI)、ウェルビーイング(SWEMWBS)においても改善効果が確認され、これら副次アウトカムについては、それぞれ異なるスキルが特に有効でした。
主要アウトカムは抑うつ症状(PHQ-9スコア)の変化であり、6週間後の解析ですべてのスキルがシャムアプリに比べ改善効果を示しました。特に行動活性化、睡眠行動療法、行動活性化+認知再構成、行動活性化+問題解決、行動活性化+アサーションが大きな効果を示しました。効果サイズはそれぞれ?0.48、-0.46、-0.47、-0.49、-0.44とスマホによる自学自習による介入としては予想以上の効果が確認されました。うつ病に対する抗うつ薬の効果がプラセボに比べて?0.31程度の効果サイズであることを考えますと、閾値下うつ状態に対してスマホCBTがしっかりとした効果を有していることが実感していただけるのではないかと思います。
効果は6週の介入後も持続し、半年後(26週)にも有意差を維持。とくに睡眠行動療法、行動活性化+認知再構成、行動活性化+問題解決、行動活性化+アサーションが有効でした。
その他、不安症状(GAD-7)、不眠(ISI)、ウェルビーイング(SWEMWBS)においても改善効果が確認され、これら副次アウトカムについては、それぞれ異なるスキルが特に有効でした。
研究の意義と今後の展開や社会的意義など
本研究は、心理支援を受けづらい社会環境にある人々にとって、スマホを活用した新たなセルフヘルプ手段を提示するものであり、公衆衛生の観点からも大きな意義があります。また、エビデンスに基づく個別化された心理介入の設計に寄与し、今後のメンタルヘルス施策の発展に大きく貢献することが期待されます。
また本研究はオンライン同意取得、アプリ配信、効果評価までのすべての工程を遠隔で完結する分散型臨床試験(DCT)として実施した点でも先進的であり、今後のデジタル介入研究のモデルケースとなる可能性を示しました。
さらに本研究は、CBTを構成する個別スキルの有効性を、世界で初めて質の高い臨床試験によって厳密に比較?検証した点に大きな学術的意義があります。いわゆる「ドードー鳥仮説」(すべての心理療法は等しく有効とする見解)に対し、CBTの中でもスキルごとに効果が異なることを明示し、今後の介入設計に対して選択的?戦略的アプローチの重要性を示しました。
今後は、CBTスキルの獲得を支援するスマホさえポケットにいれておけば、社会に満ち溢れたストレスに強くなる自己トレーニングが可能となるばかりでなく(私たちは、これを“ポケットの中のセラピスト(therapist in a pocket)”と呼んでいます)、個人特性に応じたスキルマッチング、AIによる介入内容の最適化などを通じ、心理療法の個別化とスケーラブルな展開の両立が期待されます。
また本研究はオンライン同意取得、アプリ配信、効果評価までのすべての工程を遠隔で完結する分散型臨床試験(DCT)として実施した点でも先進的であり、今後のデジタル介入研究のモデルケースとなる可能性を示しました。
さらに本研究は、CBTを構成する個別スキルの有効性を、世界で初めて質の高い臨床試験によって厳密に比較?検証した点に大きな学術的意義があります。いわゆる「ドードー鳥仮説」(すべての心理療法は等しく有効とする見解)に対し、CBTの中でもスキルごとに効果が異なることを明示し、今後の介入設計に対して選択的?戦略的アプローチの重要性を示しました。
今後は、CBTスキルの獲得を支援するスマホさえポケットにいれておけば、社会に満ち溢れたストレスに強くなる自己トレーニングが可能となるばかりでなく(私たちは、これを“ポケットの中のセラピスト(therapist in a pocket)”と呼んでいます)、個人特性に応じたスキルマッチング、AIによる介入内容の最適化などを通じ、心理療法の個別化とスケーラブルな展開の両立が期待されます。
用語解説
?閾値下うつ状態(Subthreshold depression):臨床的にはうつ病と診断されないが、抑うつ気分や意欲低下などが継続している状態。
?CBT(Cognitive Behavioral Therapy):認知行動療法。思考や行動に働きかけることで心理的困難の軽減を目指す治療法。
?分散型臨床試験(DCT):オンライン等で、遠隔から参加可能な臨床研究の形式。
?マスタープロトコル:複数の介入や比較対象を同時に評価する統合的な試験デザイン。
?行動活性化(Behavioral Activation):抑うつ気分のときに避けがちな活動をあえて行うことで、気分や行動を改善する技法。日常の楽しみや達成感のある活動を増やすことを通じて、意欲の回復を促す。
?認知再構成(Cognitive Restructuring):自動的に浮かぶ否定的な考え方に気づき、より柔軟で現実的な考え方に置き換える技法。思考のクセを見直すことで感情的苦痛を緩和する。
?問題解決(Problem Solving):抱えている困難や課題に対して、問題の明確化?目標設定?解決策の洗い出し?実行計画などのステップを踏んで取り組む技法。実行可能な行動を通じて現実的対処力を高める。
?アサーション(Assertiveness):自分の気持ちや意見を相手を尊重しながら適切に表現する対人スキル。自己主張が苦手な人にとっては、対人関係のストレスを軽減する手段となる。
?睡眠行動療法(Behavior Therapy for Insomnia):不眠を改善するために、就寝?起床時間の安定化、刺激制御、睡眠制限法などを含む科学的根拠に基づいた行動技法。
?効果サイズ:治療群が、無治療群に比してどれくらい効果があるかを標準化した数字で示す。0.2が小さな効果、0.5が中等度の効果、0.8が大きな効果と言われる。抗うつ薬のプラセボと比較した効果サイズは約0.31である。
?CBT(Cognitive Behavioral Therapy):認知行動療法。思考や行動に働きかけることで心理的困難の軽減を目指す治療法。
?分散型臨床試験(DCT):オンライン等で、遠隔から参加可能な臨床研究の形式。
?マスタープロトコル:複数の介入や比較対象を同時に評価する統合的な試験デザイン。
?行動活性化(Behavioral Activation):抑うつ気分のときに避けがちな活動をあえて行うことで、気分や行動を改善する技法。日常の楽しみや達成感のある活動を増やすことを通じて、意欲の回復を促す。
?認知再構成(Cognitive Restructuring):自動的に浮かぶ否定的な考え方に気づき、より柔軟で現実的な考え方に置き換える技法。思考のクセを見直すことで感情的苦痛を緩和する。
?問題解決(Problem Solving):抱えている困難や課題に対して、問題の明確化?目標設定?解決策の洗い出し?実行計画などのステップを踏んで取り組む技法。実行可能な行動を通じて現実的対処力を高める。
?アサーション(Assertiveness):自分の気持ちや意見を相手を尊重しながら適切に表現する対人スキル。自己主張が苦手な人にとっては、対人関係のストレスを軽減する手段となる。
?睡眠行動療法(Behavior Therapy for Insomnia):不眠を改善するために、就寝?起床時間の安定化、刺激制御、睡眠制限法などを含む科学的根拠に基づいた行動技法。
?効果サイズ:治療群が、無治療群に比してどれくらい効果があるかを標準化した数字で示す。0.2が小さな効果、0.5が中等度の効果、0.8が大きな効果と言われる。抗うつ薬のプラセボと比較した効果サイズは約0.31である。
研究助成
本研究は日本医療研究開発機構(AMED)の支援を受けて実施されました。
論文タイトル
Cognitive behavioral therapy skills via a smartphone app for subthreshold depression among adults in the community: the RESiLIENT randomized controlled trial
著者
古川壽亮*, 田近亜蘭, 豊本莉恵, 坂田昌嗣, 羅妍, 堀越勝, 明智龍男, 川上憲人, 中山健夫, 近藤尚己, 福間真悟, Ronald C. Kessler, Helen Christensen, Alexis Whitton, Inbal Nahum-Shani, Wolfgang Lutz, Pim Cuijpers, James M. S. Wason, 野間久史
*責任著者
太字:本学教員
(責任著者の古川壽亮は、本学の客員教授でもあります。)
所属 京都大学大学院医学研究科、足球彩票大学院医学研究科、武蔵野大学、東京大学大学院医学系研究科、ハーバード大学、ブラックドッグ研究所、ミシガン大学、トリーア大学、アムステルダム自由大学、ニューキャッスル大学、統計数理研究所
*責任著者
太字:本学教員
(責任著者の古川壽亮は、本学の客員教授でもあります。)
所属 京都大学大学院医学研究科、足球彩票大学院医学研究科、武蔵野大学、東京大学大学院医学系研究科、ハーバード大学、ブラックドッグ研究所、ミシガン大学、トリーア大学、アムステルダム自由大学、ニューキャッスル大学、統計数理研究所
掲載学術誌
学術誌名:Nature Medicine
DOI番号:https://doi.org/10.1038/s41591-025-03639-1
DOI番号:https://doi.org/10.1038/s41591-025-03639-1