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リサイクル異常症という新たな疾患発症メカニズム―様々な合併症を伴う原因不明の小児難病の病態を解明―


研究成果の概要

加藤耕治特任助教(足球彩票大学院医学研究科新生児?小児医学分野、リサーチアソシエイト:英国ブリストル大学)、西尾洋介研究員(足球彩票大学院医学研究科新生児?小児医学分野)、齋藤伸治教授(同)らの研究グループは、トヨタ記念病院、名古屋大学、新潟大学、岡山大学、群馬大学やイギリス、カタール、オランダ、エジプトなどの研究チームとの共同研究を通じ、これまで原因が不明であった小児難病において、新たな原因遺伝子を複数発見するとともに、患者さんに見られる様々な合併症の発症メカニズムを明らかにしました。
 
研究グループはまず、Ritscher-Schinzel症候群という原因不明の希少難病を有する患者さんのゲノム解析により、COMMD4、COMMD9、CCDC93の3つの遺伝子を、新たな原因遺伝子として同定しました。次に、これらの遺伝子は全て、エンドソームにおける膜タンパク質のリサイクル機能に関与することに着目しました。ゲノム編集技術を用いてRitscher-Schinzel症候群のモデル細胞とモデル動物を構築して解析したところ、膜タンパク質のリサイクルが正常に行われず、組織の発生に重要な役割を果たす様々な膜タンパク質の発現量が低下していることが明らかになりました。これにより膜タンパク質が正常な機能を果たせなくなり、Ritscher-Schinzel症候群の様々な合併症の発症に繋がると考えられます。

これらの知見により、「エンドソームのリサイクル異常症」という新たな疾患概念が明らかになりました。本研究成果は、Ritscher-Schinzel症候群の患者さんにより良い医療を提供することに貢献するのみならず、新たな病態概念の解明を通じて、様々な小児難病の発症メカニズムの理解や、将来的な治療法開発への展開が期待されます。

この研究成果は2025年7月3日(日本時間)に科学誌「Science Translational Medicine」で公開されました。

研究のポイント

?Ritscher-Schinzel症候群という小児希少難病の新規原因遺伝子を複数同定
?Ritscher-Schinzel症候群の発症メカニズムとしてエンドソームのリサイクル機能異常を同定
?リサイクル異常による様々な膜タンパク質の発現低下が合併症発症に関与していることを同定

背景

近年、ゲノム技術の進歩により、様々な小児希少疾患における原因遺伝子が次々と明らかになっています。原因遺伝子が判明することで、疾患の自然歴に応じた適切な検査の実施や、分子病態に基づいた治療法の選択が可能となることが期待されます。しかしながら、小児希少疾患はその希少性ゆえに、病歴や分子病態に関する情報が乏しく、原因遺伝子が特定されても、それが直ちに患者さんの日常診療の改善に結びつかないことが少なくありません。そのため、「原因遺伝子の解明をいかに日常診療の改善へと繋げるか」が、重要な課題となっています。
私たちの研究グループは、2020年にRitscher-Schinzel症候群の患者さんから、新たな疾患原因遺伝子としてVPS35Lを同定しました。しかし当時、疾患の自然歴や病態メカニズムについては、何もわかっていませんでした。そのため、原因遺伝子が明らかになった後も、患者さんの様々な症状に対しては、従来通り手探りで対応せざるを得ない状況が続いていました。
このような背景から、患者さんに最適な医療を提供するためには、同一疾患の患者さんの病歴を集積し、自然歴を明らかにするとともに、詳細な病態メカニズムを解明することが不可欠でした。(図1)

図1

図1

研究の成果

研究グループは国際共同研究により、COMMD4、COMMD9、CCDC93の各遺伝子が、「Ritscher-Schinzel症候群」の新たな原因遺伝子であることを明らかにしました。これらの遺伝子に変異を有する患者さんでは、成長発達の遅れ、脂質異常症、蛋白尿、脳の形成異常など、多様な合併症が認められました。詳細な病歴の比較により、今回解析された患者さんの症状は、これまでにVPS35LやWASHC5などの遺伝子変異が原因と報告されてきたRitscher-Schinzel症候群の症例と多くの共通点を持つ一方で、新たな合併症も確認されました。これらは、Ritscher-Schinzel症候群の病態の多様性を示すとともに、その疾患概念を再定義する契機となる重要な成果です。
Ritscher-Schinzel症候群の原因遺伝子から作られるタンパク質はCommander複合体とWASH複合体を構成します。これらの複合体はSNX17と共に、エンドソームにおいて「NPxYモチーフ」という特定のアミノ酸配列を持つ膜タンパク質のリサイクルを担います。そこで、原因遺伝子を欠損させた細胞を解析したところ、NPxYモチーフを有するLDL受容体やLRP2という膜タンパク質の発現量が共通して低下していることが分かりました。これらの膜タンパク質の機能異常は、それぞれ脂質異常症や蛋白尿との関連が知られており、患者さんで見られる症状の発症に関与していることが示唆されました(図2)。

図2

図2

更に、骨や神経組織由来の細胞を用いてプロテオーム解析を行った結果、それぞれの組織の発生に重要な複数の膜タンパク質の発現低下が確認されました。また、病態の理解を更に深めるため、中枢神経および骨組織でVps35lを特異的に欠損させたRitscher-Schinzel症候群のモデルマウスを樹立したところ、特に骨組織の解析では、骨の発生に重要なFGFシグナルやWntシグナルの制御異常が明らかになりました。これはNPxYモチーフを有するFGF受容体やLRP4といった膜タンパク質の発現変化によるものであると考えられます。同様に脳組織の解析では、APPファミリーやSEZ6ファミリー蛋白などの機能不全が示唆されました(図3)。

図3

図3

以上の結果から、Ritscher-Schinzel症候群の背景には、エンドソームにおいて膜タンパク質のリサイクルを制御するCommander/WASH経路の異常が存在し、その結果として各組織で発生に重要な膜タンパク質の機能不全が様々な合併症の原因となっていることが示唆されました。これらの知見を踏まえ、研究グループはエンドソームの「リサイクル異常症」という新たな疾患概念を提唱しています。

研究の意義と今後の展開や社会的意義など

Ritscher-Schinzel症候群の新たな原因遺伝子が同定されたことにより、これまで診断がついていなかった患者さんが新たに同症候群と診断され、臨床症状の理解が進みました。これにより、疾患の自然歴に関する理解が深まることで、患者さんに対してより適切なケアを提供できると考えられます。また、分子メカニズムが明らかになったことにより、将来的な治療法の開発にも繋がることが期待されます。

用語解説

エンドソーム:細胞膜が陥入することで形成される小胞で、細胞外からの栄養物質の取り込みや、細胞膜蛋白のリサイクルなどの役割を担っています。エンドソームのリサイクル機能により、取り込まれた細胞膜蛋白の一部は再び細胞膜へと戻され、これによって細胞膜の恒常性が維持されています。

プロテオーム解析:細胞や組織内に存在する全ての蛋白(プロテオーム)を網羅的に解析する手法です。蛋白の発現量や相互作用などを調べることで、細胞の状態や病態、遺伝子変異による影響などを理解するのに役立ちます。

FGFシグナル:線維芽細胞増殖因子(FGF:Fibroblast Growth Factor)が細胞表面の受容体(FGF受容体)に結合することで活性化される細胞内の情報伝達経路です。細胞増殖、分化、生存、移動など、発生や組織の維持において重要な役割を果たします。

Wntシグナル:Wntタンパク質と呼ばれる分泌因子がLRP蛋白など細胞表面の受容体に結合することで活性化される細胞内の情報伝達経路です。このシグナルは、細胞の運命決定、増殖、分化、移動などに深く関与しています。

APPファミリー蛋白:アミロイド前駆体蛋白(APP:Amyloid Precursor Protein)と、その類似蛋白であるAPLP1(APP-like protein 1)およびAPLP2からなる蛋白群です。主に神経細胞の発達やシナプス機能の調節に関与しています。

SEZ6ファミリー蛋白:SEZ6(Seizure-related gene 6)、SEZ6L(SEZ6-like)、SEZ6L2(SEZ6-like 2)などから構成される膜蛋白ファミリーです。主に脳に高く発現しており、神経細胞の発達やシナプスの形成?機能調節に関与しています。

研究助成

日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業「Ritscher-Schinzel症候群の病態解明と治療法開発:膜蛋白リサイクル機構の破綻による疾患メカニズムの統合的理解」(JP24ek0109646)
日本医療研究開発機構(AMED)創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業 創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)「次世代型疾患モデル動物作成」(JP21am0101120)
日本学術振興会 科学研究費助成事業(JP20K16897, JP23KJ1817, JP23K14945, JP23KK0284, JP20K21583, JP20H05700)
公益財団法人 武田科学振興財団
公益財団法人 難病医学研究財団
Qatar National Research Fund(NPRP11S-0110-180250)
EndoConnect European Research Training Network (No.953489)
Science and Technology Development Fund, Academy of Science Research and Technology, Egypt (33650)
Wellcome Trust (104568/Z/14/Z, 220260/Z/20/Z)
Medical Research Council (MRC) (MR/L007363/1, MR/P018807/1)
Royal Society Noreen Murray Research Professorship (RSRP/R1/211004)

掲載情報

【論文タイトル】
The congenital multiple organ malformation syndrome, Ritscher-Schinzel syndrome is an endosomal recyclinopathy

【著者】
Kohji Kato1,2?*, Yosuke Nishio2,3,4,5?, Kirsty J. McMillan1,6, Aljazi Al-Maraghi7, Hester Y. Kroes8, Mohamed S. Abdel-Hamid9, Emma Jones1, Shrestha Shaw1, Aya Yoshida2, Shiomi Otsuji2,10, Yuka Murofushi2, Waleed Aamer7, Ajaz A. Bhat11, Jehan AlRayahi12, Ammira S. Al-Shabeeb Akil11, Elbay Aliyev7, Ellen van Binsbergen8, Etienne J. Janssen13, Kazi Mahnaz Mehrin14, Hisashi Oishi14, Ryosuke Kobayashi15,16, Takuro Horii16, Izuho Hatada16,17, Akihiko Saito18,19, Mitsuharu Hattori20, Yoshihiko Kawano21, Philip A. Lewis22, Kate J. Heesom22, Takeshi Takarada23, Kazunobu Sawamoto24, Masaki Matsushita25, Tomoo Ogi4, Rebeka Butkovic1, Chris Danson1, Kevin A. Wilkinson26, Khalid A. Fakhro7,27,28, Maha S. Zaki29, Shinji Saitoh2*, Peter J Cullen1*

所属
1School of Biochemistry, Faculty of Life Sciences, University of Bristol, Bristol BS8 1TD, UK.
2Department of Pediatrics and Neonatology, Nagoya City University Graduate School of Medical Sciences and Medical School, Nagoya, 467-8601, Japan.
3Department of Pediatrics, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, 466-8550, Japan.
4Department of Genetics, Research Institute of Environmental Medicine, Nagoya University, Nagoya, 464-0805, Japan
5Medical Genomics Center, Nagoya University Hospital, Nagoya, 466-8550, Japan.
6Department of Biochemistry, Cell and Systems Biology, ISMIB, University of Liverpool, Liverpool L69 3BX, U.K.
7Department of Human Genetics, Sidra Medicine, 26999, Doha, Qatar.
8Department of Genetics, University Medical Center Utrecht, Utrecht, 3584 CX Utrecht, The Netherlands.
9Medical Molecular Genetics Department, Human Genetics and Genome Research Institute, National Research Centre, Cairo,12622, Egypt.
10Department of Pediatric Internal Medicine and Clinical genetics, Aichi Developmental Disability Center Central Hospital, Kasugai, 480-0392, Japan.
11Precision Genomics and Translational Omics Lab, Metabolic and Mendelian Disorders Translational Research Program, Sidra Medicine, Doha, 26999, Qatar
12Department of Pediatric Radiology, Sidra Medicine, Doha, 26999, Qatar.
13Department of Pediatrics, University Medical Centre Maastricht, MosaKids Children’s Hospital, Maastricht, 6229 HX, The Netherlands.
14Department of Comparative and Experimental Medicine, Nagoya City University Graduate School of Medical Sciences and Medical School, Nagoya, 467-8602, Japan.
15Department of Veterinary Medicine, School of Veterinary Medicine, Rakuno Gakuen University, Ebetsu, 069-0836, Japan.
16Laboratory of Genome Science, Biosignal Genome Resource Center, Institute for Molecular and Cellular Regulation, Gunma University, Gunma, 371-8511, Japan.
17Viral Vector Core, Gunma University Initiative for Advanced Research (GIAR), Gunma, 371-8512, Japan.
18Department of Applied Molecular Medicine, Kidney Research Center, Niigata University Graduate School of Medical and Dental Sciences, Niigata, 951-8510, Japan. ※研究当時
19Division of Clinical Nephrology and Rheumatology, Kidney Research Center, Niigata University Graduate School of Medical and Dental Sciences, Niigata City, Niigata, 951-8510, Japan.
20Department of Biomedical Science, Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Nagoya City University, Nagoya, 467-8603, Japan.
21Department of Pediatrics, Toyota Memorial Hospital, Toyota, 471-8513, Japan.
22Bristol Proteomic Facility, School of Biochemistry, University of Bristol, Bristol BS8 1TD, UK.
23Department of Regenerative Science, Okayama University Graduate School of Medicine, Dentistry and Pharmaceutical Sciences, Okayama, 700-8558, Japan.
24Department of Developmental and Regenerative Neurobiology, Institute of Brain Science, Nagoya City University Graduate School of Medical Sciences, Nagoya, 467-8602, Japan.
25Department of Orthopaedic Surgery, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, 466-8550, Japan.
26School of Physiology, Pharmacology and Neuroscience, University of Bristol, BS8 1TD, UK.
27Department of Genomic Medicine, Weill Cornell Medical College, Doha, 24144, Qatar.
28College of Health and Life Sciences, Hamad Bin Khalifa University, Doha, 34110, Qatar.
29Clinical Genetics Department, Human Genetics and Genome Research Institute, National Research Centre, Cairo, 12622, Egypt.
?These authors contributed equally.
* Corresponding authors.

【掲載学術誌】
学術誌名 Science Translational Medicine
DOI番号:10.1126/scitranslmed.adt2426