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アミロイド関連画像異常の病態メカニズム解明と安全性モニタリングに資する画像評価法の開発―抗アミロイドβ抗体療法中アルツハイマー病患者群の縦断的解析―


研究成果の概要

アルツハイマー病に対する抗アミロイドβ抗体療法は、認知機能低下の進行を抑制する新たな治療法として注目されています。一方、本治療法の副作用であるアミロイド関連画像異常(Amyloid-related imaging abnormalities:ARIA)発症リスクの懸念が、未だに解決されていない課題です。ARIA発症の病態メカニズムとして、血液脳関門の機能障害が関与している可能性が指摘されています。しかし、抗アミロイドβ抗体療法により生じる脳組織の微細な変化を非侵襲的に評価し、治療効果とARIA発症リスクを同時に定量的に評価する計測法はこれまでに確立されていませんでした。

米国ジョンズホプキンス大学の打田佑人講師?大石健一教授(MRI研究部門)の研究グループは、足球彩票の松川則之教授(神経内科学)?豊川市民病院の加納裕也医師(脳神経内科)の研究グループと共同研究を継続しています。このたび、名古屋大学の菅博人助教(総合保健学)が開発したMRI定量的磁化率画像の発展法である磁化率分離法や血液脳関門機能画像法を用いて、抗アミロイドβ抗体療法中患者の脳組織磁化率の変動や血液脳関門の機能変化を縦断的に定量評価しました。

本研究では、軽度認知障害または初期アルツハイマー病患者31名を対象に、抗アミロイドβ抗体医薬であるレカネマブの投与開始前から3か月間にわたって毎月MRIを撮像しました。脳MRI画像から血液脳関門の水交換率(kw)を算出し、加えて脳組織磁化率を常磁性体(生体では主に鉄成分)と反磁性体(同様に髄鞘成分)に分離して計測しました。その結果、以下の知見が得られました:

1.ARIAを発症した患者では、発症前にkw値が一過性に上昇し、その後、脳内鉄沈着量の指標である常磁性磁化率値が持続的に増加していました。
2.kw値は認知機能スコア(MoCA)と正の相関、常磁性磁化率値はMoCAと負の相関を示し、治療の有効性と副作用のリスクを同時に反映することが明らかになりました。
3.本研究で用いた定量的MRIによる計測値の変動は、個々の患者におけるARIAリスクの事前予測や治療戦略の最適化に貢献する可能性があることが示されました。

本研究は、最新のMRI技法である定量的磁化率画像分離法や血液脳関門機能画像法によって、抗アミロイドβ抗体療法の脳組織にもたらす影響を高精度かつ非侵襲的に評価する新たな可能性を提示するものであり、アルツハイマー病に対する個別化医療の推進に貢献することが期待されます。本成果は、アルツハイマー病の予防?治療に関する米国学術誌である「The Journal of Prevention of Alzheimer's Disease」に2025年6月に掲載されました。

背景

アルツハイマー病の治療において、抗アミロイドβ抗体療法は疾患修飾薬として実用化され、認知機能低下の進行を抑制する薬効が期待されています。しかしながら、治療に伴う有害事象としてアミロイド関連画像異常(Amyloid-related imaging abnormalities:ARIA)が問題となっています。ARIAとは、抗アミロイドβ抗体が脳内に沈着したアミロイドβに作用する過程で発生する画像上の異常所見であり、主に二つのタイプに分類されます。一つは血管透過性の亢進や浮腫を伴うARIA-E(edema/effusion)、もう一つは出血や鉄沈着を伴うARIA-H(hemosiderin/hemorrhage)です。これらはMRIのFLAIR画像やT2*強調画像により検出され、多くは無症候性ですが、頭痛や意識障害、けいれんといった症状を呈する場合もあります。そのため、抗アミロイドβ抗体療法を安全に実施するには、ARIAの発症リスクを予測し、早期に検出することが重要です。
 
血液脳関門は、脳の正常な活動を維持するために生来人類に備わっているバリア機構です。アミロイドβを脳外へ排泄する仕組みを備えており、ARIAの発症において重要な役割を果たすことが知られています(図1)。私たちは、抗アミロイドβ抗体療法中の血液脳関門機能の変化を計測することにより、治療効果と安全性をモニタリングする上で臨床において有用なバイオマーカーとなり得るのではないかという仮説を立て研究を開始しました。本研究では、最新の定量MRI技術を用いて、抗アミロイドβ抗体投与中の血液脳関門機能および脳組織磁化率の縦断的変化を評価し、それらが神経学的予後とどのように関連するかを検討しました。

図1 血液脳関門におけるARIA発症の病態メカニズム

図1 血液脳関門におけるARIA発症の病態メカニズム

方法

本研究は、単施設前向きコホート研究として豊川市民病院で実施しました。2024年4月から2025年3月までに抗アミロイドβ抗体レカネマブ(Leqembi?, Eisai, Tokyo, Japan)の投与を受けた軽度認知障害または軽症段階のアルツハイマー病患者を対象としました。対象者には2週間ごとの静脈内レカネマブ投与を施行し、ベースラインMRI撮像は治療開始前2か月以内に実施しました。その後、治療開始1か月、2か月、3か月後に追跡MRIを撮像し、縦断的に定量評価しました。

MRIの撮像には、血液脳関門機能を評価するためのDiffusion-prepared arterial spin labeling(DP-pCASL)と、脳組織磁化率を評価するためのMultiple spoiled gradient echoを用いた定量的磁化率画像の発展法である磁化率分離法を施行し、常磁性体(生体脳では鉄成分が主体)および反磁性体(同様に髄鞘成分が主体)を分離?定量画像化しました。

これらの定量MRI画像(kw、常磁性磁化率、反磁性磁化率)を、ジョンズホプキンス大学で開発したOpenMAP-T1(https://github.com/OishiLab/OpenMAP-T1)による全脳の自動パーセレーション後、6つの解剖学的領域(前頭葉、内側側頭葉、外側側頭葉、頭頂葉、楔前部、後帯状回)で定量値を抽出し、縦断的変化を解析しました。さらに、認知機能検査(MoCAを含む)をベースラインおよび3か月時点で実施し、MRI定量値との関連性を線形混合効果モデルにより検討しました。

図2 研究デザイン

図2 研究デザイン

結果

図3では、抗アミロイドβ抗体療法後にARIA-Hを発症した一例における、血液脳関門機能画像(図3A)、および対応する常磁性磁化率画像(図3B)と反磁性磁化率画像(図3C)の経時的変化を表示しています。なお、図3Dには、治療開始2か月後および3か月後にT2*強調画像で確認された左側頭葉外側部の微小出血像を示しています。kw値は、ARIA-Hの出現に先立って一過性に上昇しており、とくにARIA-Hが認められた領域でその上昇が顕著でした(黄色矢頭)。また、ARIA-Hの発現後に撮像された常磁性磁化率画像では、ARIA-Hを認めない領域と比較して常磁性磁性値の上昇が確認されました(黄色矢印)。一方、反磁性磁化率画像における磁化率値は、観察期間を通じて比較的安定しており、大きな変化は認められませんでした。

図3 抗アミロイドβ抗体療法後にARIA-Hを発症した一例の縦断的画像変化

図3 抗アミロイドβ抗体療法後にARIA-Hを発症した一例の縦断的画像変化

続いて、MRI定量指標が認知機能に及ぼす影響を確認するため、Montreal Cognitive Assessment (MoCA) による認知機能スコアを目的変数、各解剖学的領域のMRI定量値(kw、常磁性磁化率、反磁性磁化率)を説明変数、年齢や性別、教育歴、ベースラインMRI撮像日から受診日までの時間、APOE多型を共変量として調整した線形混合効果モデルを構築し統計学的に検討しました。その結果、前頭葉および内側側頭葉におけるkw値は、MoCAスコアと有意な正の関連を示し(それぞれβ = 0.471[95%信頼区間: 0.116?0.825]、FDR補正P = 0.019、およびβ = 0.419[95%信頼区間: 0.071?0.758]、FDR補正P = 0.038: 図4A)、一方で、内側および外側側頭葉における常磁性磁化率値は、MoCAスコアと有意な負の関連を示しました(それぞれβ = ?0.524[95%信頼区間: ?0.893??0.156]、FDR補正P = 0.005、およびβ = ?0.438[95%信頼区間: ?0.772??0.088]、FDR補正P = 0.027: 図4B)。反磁性磁化率値については、いずれの領域でもMoCAスコアとの有意な関連は認められませんでした。

図4 抗アミロイドβ抗体療法中患者のkw値と常磁性磁化率値の縦断的変化

図4 抗アミロイドβ抗体療法中患者のkw値と常磁性磁化率値の縦断的変化

結論

レカネマブ治療中の早期アルツハイマー病患者における血液脳関門機能や脳組織磁化率の縦断的な変化について、定量的MRIを用いて観察しました。特筆すべき点として、ARIA-Hの発症に先行したkw値の一過性の上昇と、続発する常磁性磁化率の持続的な上昇を捉えることに成功しました。血液脳関門機能の指標であるkw値は認知機能と正の相関、脳内鉄沈着量の指標である常磁性磁化率値は認知機能と負の相関を示し、治療の有効性と副作用のリスクを同時に反映することが示されました。

研究の意義と今後の展開

本研究では、アルツハイマー病の早期段階において抗アミロイドβ抗体療法を受けた患者を対象に、最新のMRI技術を用いて血液脳関門機能と脳組織磁化率の変化を経時的に評価しました。その結果、認知機能と関連する二つの重要なMRI定量指標が明らかとなりました。すなわち、血液脳関門を通過する水分子の交換効率を示すkw値が高いほど認知機能が良好であり、一方で、脳内の鉄蓄積を反映する常磁性磁化率値が高いほど認知機能が低下している傾向が示されました。さらに、治療に伴い出現する可能性のある副作用「ARIA-H(微小出血を伴うアミロイド関連画像異常)」においては、発症前にkw値の一過性の上昇が認められ、その後に常磁性磁化率の持続的な上昇が確認されました。これらの変化は、従来の定性画像診断では捉えにくい脳内変化を定量的に示したものであり、治療の安全性と効果を同時に見極める上で有望な指標となる可能性があります。本研究はまだ予備的な段階ではあるものの、先進的なMRIバイオマーカーを臨床現場に取り入れることで、個別化された認知症治療の実現に近づくものと期待されます。

研究助成

本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(KAKENHI 22K07520、KAKENHI 23K07107)による助成を受けて行われました。

論文情報

【論文タイトル】
Blood-brain barrier water exchange and paramagnetic susceptibility alterations during anti-amyloid therapy: preliminary MRI findings

【著者】
打田佑人*1, 2、加納裕也2, 3、菅博人4、櫻井圭太5、森田英誉3、赤川佳寛6、松川則之2、大石健一1
(*責任著者)

(以下、論文投稿時の所属機関)
1.ジョンズホプキンス大学放射線科学MRI研究部門
2.足球彩票大学院医学研究科神経内科学
3.豊川市民病院脳神経内科
4.名古屋大学大学院医学系研究科総合保健学
5.国立長寿医療研究センター放射線診療部
6.豊川市民病院放射線科

【掲載学術誌】
学術誌名:The Journal of Prevention of Alzheimer’s Disease
DOI番号:https://authors.elsevier.com/sd/article/S2274-5807(25)00199-2